むかしむかし、おじいさんとおばあさんが暮らしていました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へシンクロナイズドスイミングの練習へ向かいましたが、ドッパーン!!普通に流されました。自然を舐めていました。川の流れは凄まじく、おばあさんはあっという間に流されていきました。途中でなにやら大きな桃とニアミスしましたが、今のおばあさんには桃のサイズなど気にも止まりません。ついでにおばあさんも止まりません。
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おばあさんは流されるままにずんずんと流され、遂には海へと出てしまったのです。 おばあさんはどんどん沖へと流されて行き、おばあさんの周りにはイルカが楽しそうに跳ねました。 おばあさんも楽しくなって、ついついバタフライを始めました。 沖ではクジラがダイナミックなジャンプをしていますが、おばあさんは全く気づく気配もなく、ドルフィンキックでどこまでも泳いで行きました。 一方、流された桃は…
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鬼ヶ島へと辿りついていました。そしてすぐに、お腹を空かせた鬼に見つかり、勢いよくかぶりつかれます。が、ここで桃の念能力「オレ様の肌はダイヤモンド」が発動します。桃を食べるはずの鬼の歯が逆にへし折られました。歯がなくなって、悲しくなった鬼は泣いてしまいました。桃はどうしていいかわからず、とりあえず、ぷるぷると震えることにしました。鬼は桃のぷるぷるがツボに入ったみたいで、お腹を抱えて笑いだしました。
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やがておばあさんは、シンクロから競泳に転向。最高齢のバタフライ世界記録保持者となり世間を沸かせました。 一方、鬼は桃と一緒に人気YouTuberになり、子供たちに笑顔を届けました。 平和なときは、長くは続きませんでした。ある事件が起きたのです。 被害者はきび農家。収穫間際のきびを根こそぎ盗んでいくという冷酷極まりない犯行でした。 犯人を目撃したという男はこう証言しました。
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「歳の割に身軽で、あっという間にきびを刈って持って行っちまうんだ。背負子に纏める手際なんて、見事なもんだったよ。相当手慣れるんだろうな、あの爺さん」 バッチリ犯人を目撃した証言者の情報から、すぐに警察は犯人を突き止めました。 その事件は大ニュースとなり連日世間を賑わせます。あの最高齢のバタフライ世界記録保持者の夫が犯人だったのですから、無理もありません。 そう、犯人はおじいさんだったのです。
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動機は『きびだんごを作っておばあさんへのプロボーズのプレゼントにしたかった』。 おばあさんが活躍している一方、家にひとりぼっちで置いてけぼりにされていたおじいさんは痴呆症になっていたのでした。 おばあさんは悔やみましたが、選手を引退してバタフライの指導者に転向する事が決まりますます忙しくなるので、まだ家に帰れません。 一方、チャンネルがマンネリ化し人気が低迷し始めた鬼と桃は悩んでいました。
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鬼は悩ましそうに言いました。 「何か、いい案ねえかな?」 桃はあっ!と飛び上がるとこう言いました。 「桃ちゃんでぇ〜す」 自撮り棒片手に前髪をカラフルなピンで止めながら桃は言いました。 「いやそれ〇〇ちゃんね?」 鬼は焦りました。 「じゃあ、make it possible with」 「いやそれ〇〇〇でんがんね?」 「えっと、じゃあ…」 桃は黙り込んでしまう。 「いや、もうネタギレかよ!」
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こんなやり取りを延々とやっていました。 周りの子分たちは大爆笑です。 二人は手応えを感じ、M−1出場を決意しました。しかし、一回戦敗退。 子分たちの笑いは、愛想笑いだったのです。 そんなとき、海から黒くて大きな船がやってきました。額に『桃』と書かれたはちまきを巻いた男がいます。 「我が名は桃次郎。その桃を割りたまえ」 鬼は一瞬ためらった後、割りました。 裸の成人男性が出てきました。
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桃次郎は男性を一瞥すると、溜め息をついてポケットから小さな装置を取り出しました。 「やれやれ、また失敗か。今回は出だしからズレてしまったようだ。仕方ない」 カチリ、桃次郎がスイッチを押すと、彼の周囲のもの全てが逆再生を始めました。 「長年同じ物語を繰り返し続けた弊害で、この世界が歪みを生じて暫く経つ。父母、そして兄さんが元に戻る日は…訪れるのだろうか」 桃次郎は一人悲しく、遠くを見つめるのでした。
- 完 -