悪魔になった母親

「いやぁぁぁ…!アンナ…アンナぁぁぁ!」 母親は血塗れになった娘を抱きしめて泣き叫んだ。 「あなたまで死んでしまったら…私は…」 母親はキッと顔を上げると娘の血と己の涙を混ぜると床に血と涙のインクで魔法陣を描いた。 (アンナ、あなたを死なせはしない。たとえ悪魔に魂を売ろうとも…!) 母親の心の叫びに呼応するかのように床に描かれた魔法陣が赤い光を放った。 その瞬間、母娘は理を外れた存在となった。

Ellie

5年前

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数百年前、ある人物が娘を殺された。その怒りと悲しみにより我が子を生き返らせようと悪魔を召喚した母親は、村を焼き、街に病を流行らせ、国は壊滅の危機に陥った。そして今も尚亡霊としてこの街を彷徨いている。 青年はそこまで本を読むと棚へと戻した。彼は世界各地の悪魔祓いを行ってきた有名なエクソシスト。 今回この街を訪れたのは隣町の長老より、例の街の様子を見てきてほしいとの以来を受けてのことだった。

さち

5年前

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歴史図書館の分厚い扉をくぐった青年は、法衣の上から羽織った外套の裾を直しながら、はじめて降りたった街の寒さに身ぶるいした。 この街の歴史書によると、娘の名前はアンナ。しかし、母親の名前は記載されていなかった。亡霊として彷徨っている場所を特定するには情報が弱い。 青年は、特に情報が集まる手近な酒場へと足を向けた。 「やれやれ、悪魔召喚とは恐れいったね」 酒場の重い扉をひらいた。

5年前

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店内は閑散としており、客の姿は全く無い。 「いらっしゃい」 店主の男の声が店内に響き渡る。 「酒を」 「アンタ聖職者だろ?いいのかい?酒なんか飲んでも」 「俺の部署は特別なんでね」 「…ふん」 店主はそう漏らすと、無言で青年に酒を差し出した。 「前はこの店も多くの客で賑わってたんだがね。だが、流行り病が出てからというもの、今じゃこの有様だ。巷じゃ、悪魔の呪いとか言って大騒ぎさ」 「へぇ…」

hyper

5年前

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店主の言葉にまるで関心がなさそうに演じながら、まずは味見がてらとグビッとやった。 そんなに癖のある感じでなくて、ここら辺の地酒にしては飲みやすい方だと思った。 グラスを置いて「何かつまみはあるかい?」と青年が訊くと「塩豆なら炒められるがね?」と店主が答えた。 「じゃあ、それを頼むよ」と応じると「あいよ!」という威勢のいい返事が返ってきた。 数分後、香ばしい匂いのする小さな皿が青年の前に出された。

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「ところで、この店にアンナって娘はいるかい?」 聖職者の青年がその名を出した途端、店主の顔から笑みが消えた。 「アンナ、ね。さて、どのアンナのことかね」 「年の頃は十八くらい、だいぶ前に母親と"生き別れ"てから、一人で暮らしてると聞いたんだが」 「そのアンナなら、じき店に来るが、あんたの手に負える女じゃない。悪魔みたいなヒモがついてるからな」 「その悪魔に用があるんだ」

metamaru

5年前

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「まさかここでやり合うんじゃあねえだろうな?」 「場所を移したい所だが、出会ってしまったら終わりだ。気配で勘づかれる」 店主は忌々しそうに舌打ちをして「くそっ…もうあいつが来る時間じゃあねえか。俺の店を吹っ飛ばす気か…」とぼそぼそ呟いた。 ハッとして青年が立ち上がった。 「悪いマスター、荷物まとめて出てってくれ。…まさかこんなに早く見つかるとはね」 気配を探るようにして、身構えた。

シバ

5年前

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「クソ…店は弁償してもらうからな!」 店主がそう吐き捨てて走り去ったと同時にドアが木っ端微塵に砕けた。 「おいおい。ドアの開け方も知らねぇのか。いつから悪魔はそんなにバカになったんだ?」 「バカとはご挨拶だな。エクソシスト。」 アンナと呼ばれる娘と悪魔…娘を連れた悪魔の方が正しいか。が、入ってきた。娘の方は正気を既に失っている。 「単刀直入言う。死ね。」 悪魔に向かってエクソシスト用の銃を放った。

Maria

3年前

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弾丸は正確に娘の心臓を撃ち抜いた。娘は呻き、ばたりと倒れた。 「アンナ!なんてことを…このっ、悪魔!」 母親は顔を歪め、こちらに襲いかかる。俺はその心臓めがけて、引き金を引いた。 「悪魔はお前だ。お前の身勝手な行動で、娘さんが苦しんでるのが分からないのか」 ハッ、と母親の表情が変わる。瞬間、弾丸に身体を貫かれその姿は煙のように消えた。 『ありがとう』 どこからか聞こえた少女の声に、青年は微笑んだ。

ごん

3年前

- 完 -