今朝の占いのラッキーアイテムはウサギのイラスト。最近お気に入りの占いサイトを見つけてから、毎朝の日課としてラッキーアイテムのチェックをしている。 昨日は白いサンダル、その前は大きめのバッグ。家に該当するものがないときは街中で探すのだ。 でも、今日はウサギのイラスト見かけなかったなぁ、、 そんなことを思いながら乗った帰りの電車 向かいの席にウサギのタトゥーが太ももに入った綺麗な女の人を見かけた。
- 1 -
これは……声をかけるっきゃない! 「可愛らしいタトゥーですね」 「はァ?」 女の人はスマホから顔を上げ、僕をギロッと睨んだ。 でも僕に敵意がないと分かると「だろ?」と笑った。か、可愛い。 「昔からウサギが大好きでさ、高校の時に貯金して彫ったの。で、今はウサギのブリーダーやってるんだよね」 「へぇー!」 お姉さんの意外な一面を知って、がぜん興味が出てきた。どうにか連絡先を聞き出せないかな?
- 2 -
「僕も小学生の頃生き物係でウサギ世話してました!」 嘘ではない。餌やりしかやらんかったけど。 「おお?!私もやってたよ。でもさ、餌やりしかやらない男子がいて、結局私一人で面倒みてた」 …ギクッ 「まぁ、お陰で今があるけどね」 そう言ったお姉さんの笑顔が眩しくて、僕は自分の後ろめたさにグサグサ来た。 「…あはは…居ますよねそう言うバカ男子。僕はちゃんと責任もって飼育するけど」(どの口が言う?)
- 3 -
「見かけによらず、真面目なんですね」 「最初の言葉は余計だけどね。ま、ありがと」 お姉さんはニコリと笑うと、そうだ、と思い出したように言った。 「今度ね、耳の後ろにウサギのプチタトゥーを入れようと思ってるんだ」 彼女は長く無造作に垂らした髪をさっと持ち上げ、ここ、と人差し指でとんとんと右耳の後ろを叩いた。 揺れた髪から香る甘い匂いに、どきどきする。露わになった白いうなじが、目に毒だった。
- 4 -
「素敵だと思います。隠れたところにある秘密って、なんというか、すごくドキドキするものだと思いますし」 「あはははは!」と彼女は声を上げて笑った。 「へぇ、素直でかわいいじゃないか」 一瞬だけ、彼女の目が蛇のように光って見えた気がした。 愛想笑いで応じていると、ふと、彼女の足が目に入った。彼女は白いサンダルを履いていた。それは昨日のラッキーアイテムだ。「今朝の占い」的には、アンラッキーの兆候だった。
- 5 -
御守りを失くすと逆にバチが当たる的なノリだと思うが、どうだろう。僕の場合、占いそのものを信じると言うよりは、験担ぎに近い感覚だが────。 「お、隣空いたよ。座れば?」 元いた向かいの席ではパープルヘアの婆ちゃんが眠りこけている。薔薇の棘。朝露煌めく蜘蛛の巣。兎を丸呑みした蛇。頭の中でそんなようなイメージがぐるぐるしつつ、抵抗できず。 「普段ならこんな馴れ馴れしい奴ムリだけどね。キモいじゃん」
- 6 -
「は、はは、そうですよね…」 僕は苦笑いしたが、雰囲気は悪くない。 このまま上手くいけば、お友達に… と、その時、突然お姉さんの視線が変わった。 「おい、そこのお前!」 「!」 彼女は突然立ち上がり、例の婆ちゃんの前に立っている一人の男を蛇の様に睨みつけている。 「テメェ、今そこの婆ちゃんの財布盗んだろ」 男はその場を急いで逃げようとしたが、 「ウラァ‼︎」 お姉さんの蹴りが男の頭に直撃した。
- 7 -
反動で白いサンダルが脱げ落ちる。スカートがずり上がり、裸足になった彼女の内腿にウサギのタトゥーの全貌があらわになる。 左右の足のバランスを失った彼女は着地に失敗して床に手をついた。 「生意気なことしてくれやがって。この、アマ!」 態勢を立て直した男が彼女ににじり寄る。反撃をするつもりだ。 僕は反射的に前方へ踊り出て横臥する彼女の足から残ったサンダルを抜き取り握りしめた。
- 8 -
「オイッ!何しとるんじゃ!」 いつの間にか何十もの園児に 取り囲まれていた。呆気に取られていると 園児の一人がスリ男を蹴り上げた 「ウサギ組の姐さんと事構える気か!」 園児に囲まれ男は蹴られ続けられている 「そういう言葉遣いやめなさいって…」 お姉さんは起き上がりつつ園児達を窘める 「あっ!姐さんの靴!お前仲間かコラァ!」 一人の園児がそう叫んだ後 股間に強い衝撃を感じ… 僕の記憶は無くなった。
- 完 -