拝啓 最愛の貴方へ
私はこれから、人生初のファンレターをしたためる。
相手は最近好きになったアイドルのユウ君。
ああ、私の手書きの文字が彼の目に入るなんて信じられない!と興奮する一方で、お近づきになれる訳でもないのにファンレターなんて出してどうするのか、と冷めた自分もいる。
しかし、やはり気持ちを伝える為には出さねばならない。
私は百貨店で買ってきた少しお高い便箋を机に広げ、背伸びして買った万年筆を握った。
- 1 -
私は想いを書き連ねて便箋を何枚も重ね、何だか突然満足した。
なんていうか自分のありったけの感情を表現し尽くしたら相手に届いていようがいまいが良いみたいだ。
もちろん、ファンレターを出さないわけじゃない。
明日になって落ち着いてから読んでみて一番よく書けているのを送ろうと思いつき、一度机から離れた。
久しぶりの何とも言えない充実感に満たされている。やっぱり、ユウ君ってステキ♪好きすぎる!
- 2 -
一晩経ってからファンレターを読み返してみた。
私ってばなんて文才の塊なんだろう。これは将来文豪になるのでは?というほどユウ君への愛に溢れていた。
誤字脱字がないかチェックし、ユウ君の隠し撮り写真も入れて、「貴方をいつも見ています」という一文を添えた。
そして郵便受けに投函。
ユウ君がどんな表情でこのファンレターを手にとるのだろう。
私は少し背伸びして買った双眼鏡を握りしめた。
- 3 -
「…うわ、何これ」
届いたファンレターを見て、思わず顔を顰める。薄桃色の便箋に、びっしりと書かれた文字。自分勝手な愛情で埋め尽くされたその内容に、心底うんざりする。封筒の奥に、便箋とは違うものが入っていることに気が付いた。取り出してみて、戦慄する。
「これ、先週の俺…なんで」
最近感じていた視線。これはファンによるものだったのか。ストーカーに隠し撮りだなんて、趣味が悪い。
「…気持ち悪ぃ」
- 4 -
それが正直な気持ちだった。
「どうします?」とマネージャー。
「もちろん、対策してほしい。出来れば特別なマネージングチームを作るとかさ。警備も何倍も増やしてほしいな。あと、何でも君らで気がついた事があれば残らずやってくれ」
「ですよね。早速、手配します」
「ああ、頼む」
急に事務所内が慌ただしくなった。
こんな状態ではユウを自宅に帰すわけにいかないので、対策の施し易いホテルに長期予約を入れた。
- 5 -
だが、ホテル滞在3日目にして事件が起きる。
深夜に仕事が終わり、部屋へ戻ってきたユウ。
次の日も仕事がある為、軽食を取って早々に床につく。
トゥルルル!
突然、鳴り響く内線電話に飛び起きる!
こんな時間に誰だよ!?
だが、例のストーカーの件もあるので電話を取らない訳にはいかない。
ガチャ
『頼まれたルームサービスなんですが、いつお持ちしましょう?』
??
そんな物、俺は頼んでいない。
- 6 -
受話器を握るユウの手が震える。
「……頼んでいません。間違いじゃないですか?」
短く告げて電話を切った。しかし、心臓の鼓動は早まるばかりだ。
その時、スマホに通知が届く。
見知らぬアカウントからのダイレクトメッセージ。そこには、今の自分の姿が写った写真が添付されていた。
『パジャマ、似合ってるね。さっきの電話、冷たくて悲しかったな』
絶望が背筋を駆け抜ける。
- 7 -
すると突然、ドアノブがガチャガチャと音を立てた。
「ひっ!」思わず悲鳴が出る。オートロックなので開けられることはないが、ドアの外にストーカーがいることは間違いない。
慌ててフロントに電話しようと受話器をとるが、今度は何の音もしない。ボタンを何度も激しく押したが同じだ。
すると、開くはずのないドアがガチャリ、と音を立てて開いた。
そんなバカな…!
その影はゆっくりと部屋に入ってきた。
- 8 -
━━好きなタイプ?純情です。アプリで何でも済む時代だからこそ、手書きの手紙に萌えませんか?
昔から貴方を知っている。
━━何でも君らで気がついた事があれば残らずやってくれ
ですよね。先回りが優秀、任せて。
━━蟹座のラッキーアイテムは万年筆。今日もいい一日を!
貴方の番組の占い、本当によく当たる。
「ユウ君のおかげで最高の彼女になれました」
最期のファンレターをしたためる。
- 完 -
作品情報
拝啓 最愛の貴方へ
#56006
- リレー期間
-
3年10ヶ月