少女no.1024286の受難

[少女no.1024286。物語作家の要請により出動せよ。] 少女は無機質な高い壁を無言で見つめていた…。 ある物語に出てきた登場人物が、違う作者の物語のそれと何となく似ていると感じる事はないだろうか。一般にぱくりやパロディーなどと呼ばれるが、それは正確ではない。それらの物語に出てきた人物は確かに同一人物であるからだ。 少女は壁の此方側の人間で、彼方側の作者の要請で役を演じなければならない。

ゆりあ

10年前

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1024286の少女の属性は青いショートカットに紅い瞳、透き通るように白い肌、やせ型。 最近依頼が増えていて、演じ分けに苦労をしている少女はゆっくりとため息をつく。 [物語作家からの条件]と記されたデータが少女に届く。一読してインプットし、役作り。決め台詞の練習を繰り返す。 「出動準備、完了しました」 壁の向こうに報告すれば、壁の一部がすっと開く。解放。少女は飛び出し、物語の中へと飛び込む。

10年前

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壁は閉まったと同時に跡形も無く消え、彼女はとある街並みに立っていた。 「さて、ここからその角まで13歩…」 彼女がきっかり13歩走ると、ドンッという音と共に男子とぶつかった。 「あ、す、すいません♡」 「いててて…」 その後、彼女は直ぐに腕時計を確認した。 『衝突の正確度:95%』 (よし、まあまあだな) そして彼女は、 「いっけな〜い!遅刻しちゃう!」 と言って次のミッションに向かった。

hyper

10年前

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1024286の少女が次に向かうのは学校の教室である。教卓の前に立ち、転校生を演じなければならない。 物語作家から与えられた名前を黒板に書き、自己紹介をする。 このシーンにおいての[物語作家からの条件]は、先ほど角でぶつかった男子と顔見知りであることを衆知させることだ。 しかし、今度のミッションには邪魔が入っているようだ。男子は机に突っ伏して眠っている。さあ、どうするか?

aoto

10年前

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この青髪赤目という属性故、所謂学園物に少女1024826が起用されることはほとんどなかった。最後に教室を舞台としたのはもう十年も前になる。 ファンタジックな世界であったら、こんなイレギュラー展開の対応も百戦錬磨であった少女だが、何せここは学園物。しかも現在の設定は可愛い天然な女の子ときた。 そのとき、気付いた。男子の隣の席は誰も座っていない。と、いうことは。 ……なるほどね。

Ringa

9年前

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あの席が私の席になってあの男子と仲良くなるわけね? と思っていたら、担任が「君の席はあそこね」と指差した方向が違った。 えっ? あそこじゃないの? ええ〜っ? 担任が指定した席は男子から遠く離れた後方の隅の席だった。 彼女は予想通りでない展開をいぶかりつつも自分の席についた。 男子は相変わらず机に突っ伏して寝ている。 こんなに離れてて、どうやってあの男子に私の存在を認識させればいいのだろう?

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「すいません。委員会の仕事が長引いてしまい朝礼に遅れてしまいました」 茶髪、短髪の委員長が歴然とした態度であの男子の隣の席についた。 男子を叩き起こすと、何やらヒソヒソと話し込んでいる。 私は自慢の地獄耳で盗み聞きをした。 「おい、それは俺の体なんだからな」 「わーてるよぉ。胸とか触ってないよね……」 あの二人。体が入れ替わってる!! そんな、それじゃ何をしたって私は脇役じゃない!

Lie街

3年前

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だが新人キャラクターならここでパニくるかも知れないが、少女1024286にはこれ迄の経験値がある。 データには自分が主人公と配役の筆頭に記さていたし、物語ジャンルもしっかりと学園物とあった。 ならばこの展開は…いや違う!肝心なのは自分の設定だ!キャラクターがしっかり出来ているならばストーリーがキャラクターに合わせ展開するのだ。私のキャラクターは…そうだ! ―――可愛い天然!――― これだ!!

真月乃

3年前

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「青嶋あくあですっ。仲良くしてねっ」  笑顔で自己紹介……からの、額を教卓でぶつける! 「あうっ」 「あははっ」「ドジだなぁ」  すると教室中が沸いた。例の二人も注目している。 「あっ! あの子、今朝俺がぶつかった子だ!」 「私と入れ替わる前に会ったっていう、あの?」  いける。私なら、ヒロインを演じられる!    少女1024286は知らなかった。  今回の役が「悪役令嬢もの」の主人公だと。

3年前

- 完 -