「どう?結構自信作なんだけど」 「…」 「この漫画を出版社に持って行こうと思うんだけど」 「…ぷっ」 「え?」 「ぷふふふ、お前、これってギャグ漫画?」 「失礼な事言うな!これは格闘漫画だ‼︎」 「だ、だってさ〜、お前、技の名前のセンス無さすぎ!」 「え?」 「何で必殺技の名前が『オクラホマミキサー』なんだよ!フォークダンスかっての!技っぽいものつけても分かるって!」 「…」
- 1 -
「しかもお前これセリフ、『来い!ガングリオン!!』ってなんだよ。なんか武器みたいなの呼び出そうとしてんの分かっけど、それただの関節の病名だろが!」 「え!?」 「ぷふふふっ!いや、分かるよ、すげぇ武器っぽいし、なんなら機動戦士っぽいよな!機動戦士ガングリオン!とか描いたらどうだ?」 「…」 「いや、まじ面白いよお前のギャグ漫画」 「だから格闘漫画だって言ってるだろ!」
- 2 -
「しかもなんだよ、この『アルツハイマー・ディズィーズ!!』って!」 「敵の必殺技だよ!?炎をフィールド全体に撒き散…」 「アルツハイマーって、それただの認知症だし」 「うっ、うそ!」 「あとさあ、町の名前もおかしいだろ」 「そんなことないって!俺的に一番香ばしい名前つけたのに」 「ほう?その結果が『マイム・マイム・シティ』か」 「うん」 「だーかーら、フォークダンスかっての!!」
- 3 -
「で、敵の謎の組織だっけ? ストレプトコッカス・ミュータンスって」 「まあ、敵はたくさんいた方がいいしな」 「なんで地球温暖化を防ぐためとか言ってんの? いい人たちじゃないかっ!?」 「それは地球を支配したときに心地よく過ごしたいからだろ!」 「ぷふっ! いや〜本当に面白いな。あ、あと組織の名前は虫歯菌の一種だぞ」 「マジかよ」
- 4 -
「いやでも、ある意味お前才能あるわ! ギャグの才能!」 「だからこれはギャグじゃないって言ってるだろ!」 「試しにこの「スマイルピープル」っていうギャグ漫画雑誌に持ち込んでみろよ! 絶対いい線いくって!」 「……青年向けのギャグ漫画雑誌じゃねーか!」 「小・中学生にはこのギャグはわからんだろ」 「だからギャグじゃねーから!」
- 5 -
「おっ、賞金20万だって。これは貰ったな!」 「絶対応募しないぞ!これは格闘漫画なんだ!」 「つってもバトルより固有名詞の自己主張が激しいからなあ。さらに追加で、ラスボスのリミッター解除詠唱の『ペプシン・ストマック』って胃の分解酵素だからな」 「……嘘だな!」 「ガチだっての!もうね、完全に青年向けギャグ漫画だよ」 「ここまで名前の批評ばかりだな!格闘バトルの方の評価を聞かせてくれよ!」
- 6 -
「いやいや、名前に目がいってまだバトルの質とか見れてねえから」 「そんなにかよ!?メインは技名じゃねえからな!?見ろよこの主人公のオクラホマミキサー、超かっこいいじゃん」 「んー、なんか無駄に迫力ありすぎて嫌だな。特にポーズがよろしくない」 「じゃあどうすりゃいいんだよ!」 「実際に見てみれば?オクラホマミキサーとかマイムマイム、参考になるかもよ?」
- 7 -
「なんで格闘漫画描くのにフォークダンス見なきゃなんねえんだよ!」 「こんなにフォークダンス関連の固有名詞が出てくる格闘漫画がそもそもねぇんだわ!」 「……分かったよ、じゃあ名称だけ変えるから。それでいいんだろ?」 「いや、折角なんだしこのままいこうぜ。それで、その名前の要素を取り入れりゃいいんだよ」 「取り入れるったって……」 「だからこそ早く見るぞ、フォークダンス! 動画再生っと……」
- 8 -
「…うん、意外と、いいんじゃないか?うん、正直カッコいい名前多かった」 「だろお!?なら「スマイルピープル」に早速応募しyo」 「格闘漫画って言ってんだろぉ!?」 「はぁ、試しに一回送ってみろよ、それでダメだったらギャグ漫画じゃないって事だろ?」 「それもそうだな、送って来てやるよ!だけどこれで落選したら謝罪しろよな!」 「わーかったって」 新しいギャグ漫画の王が生まれた瞬間であった
- 完 -