推理好き翠莉の華麗なる推理
推理モノが好きすぎる女×せっかちな男
「おい、早くしてくれよ。出発が遅れると予定が全部狂っちまうだろ」
「いえ、外に出てはいけません。これは事件なんです」
同棲中の彼女と一泊二日の旅行に出かけるため、家を出ようとした朝のことだった。
彼女の翠莉は、女性の中でもメークアップが早い方だと日頃から感じていたので、まさかこの時間にイライラさせられるとは思ってなかった。
「どうした。何が事件なんだよ」
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「私の歯ブラシが見つかりません。これはかなりの大事件です。一体誰に、何の目的で……?」
顎に手を当てて、ぶつぶつと唱え始める彼女。
また始まったか……。俺は額に手を当てる。
彼女の好物は推理に関するありとあらゆるものだ。それは小説、ドラマ、映画に留まらず、日常のあれこれをいちいち推理してしまう悪癖だった。
「俺がカバンに入れたよ」
俺は推理を続ける彼女を無理矢理引っ張ると、車に押し込んだ。
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道中も彼女の推理癖は止まらない。
「おかしい。あの女性、曇っているのに帽子を被っています。変装のためかしら…」
「こちらの道に皆さん曲がって行きます!真っ直ぐ行くと何か危険なことでも…」
その度に宥め賺しながら、目的地に着いた。
老舗旅館の清雅な佇まいに、彼女は当然のように呟く。
「事件が起きそうですね。」
だけど本当に事件が起きるなんて、その時は思っていなかったんだ。
- 3 -
夜、女将が部屋に訪れた。
「隣室の方が亡くなっていました。警察を呼びましたが、ここは山奥で到着まで時間を要します。犯行未然防止のため、恐れ入りますがラウンジにお越しいただけますか」
すると彼女が人差し指を立てた。
「現場確認をしても?警察を待つ間に情報を集めるべきかと」
「失礼ですが貴女は……?」
彼女はフッと笑う。
「一般人です」
「分かりました。こちらへ」
ちょ待てよ。なぜお連れする⁉︎
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隣室を開けると、奥の広縁で浴衣姿の女性が椅子に座って項垂れていた。
「ガイシャに反抗の形跡はなく、部屋も荒らされていない…」
彼女はすでに顎に手を当てて推理モードに入っているが、そもそも…
「彼女、本当に死んでるんですか」
「あの通りです」
「脈は取りましたか」
「一介の女将に、そのような専門的な事は…」
イラっとして確認のため近づこうとすると、彼女が叫んだ。
「現場保全のため立ち入り厳禁です!」
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「いいから落ち着け!」
俺は強引に部屋の中へ踏み込んだ。現場保全も大事だが、人が倒れているのなら救護が最優先だ。
「おい、大丈夫か!」
広縁の椅子に腰掛けたまま項垂れている女性の肩を揺さぶる。すると、彼女は「……ん……あ?」と眩しそうに目を擦りながら、ゆっくりと顔を上げた。
「……ふぁぁ。あら、女将さん? お部屋のチェックインですか?」
死体どころか、単に居眠りをしていただけだった。
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「妙ですね」
彼女の推理癖が止まらない。
「なんだよ、亡くなった客はいなかった。それで終わりじゃないか」
「なぜ、本当に死んでいるかどうかも確かめず、女将は警察を呼んでしまったのか?
悪い風聞が流れるのを避けるためにも、早とちりせず慎重になる場面ではないでしょうか。素人の私たちを現場に呼び込んだのも解せません」
乗り込んだのはお前だぞ。
「はっ……!女将の目的は警察を呼ぶことだった??」
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「そう、客が死んでいると通報すれば、警察は必ず来る。しかも大勢で大至急。そして警察が到着する頃合いを見計らって、実は死んでいなかったという事実を第三者に確認させる。警察は着いたらすぐ引き返すだろうけど、1〜2時間を無駄にする」
「うん。それで?」
「つまり、女将にはその時間、街の警察を手薄にする必要があった」
彼女は女将を見た。女将は微笑んでいる。
「まさか、一般人に見破られるとはね」
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「だけどもう遅い。私の仲間が街の銀行を襲ってる頃さ。警察は人員が足りず強盗の成功率は上がるって寸法さ!」
女将の邪悪な笑みに皆、戦慄する。
だが翠莉だけは違った。
「それって◯◯銀行ですか?」
「そうだけど此処に居るアンタに何が出来る!?」
「開いてないと思いますよ」
「えっ?」
「此処に来る途上、◯◯銀行に電話したんですよ。『事件が起きます』って。それが脅迫に取られたらしく暫く休業するそうです」
- 完 -
作品情報
推理好き翠莉の華麗なる推理
#36775
- リレー期間
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9年3ヶ月