裏切られた聖女のワルツ

裏切られた聖女のワルツ

昔々ある王国に一人の美しい姫がいました。人々は美しく賢く優しい姫を慕い、近隣の国々の王子達は我こそは姫の夫にと名乗りをあげるほどでした。
しかし、ある時恐ろしい疫病が流行りました人々は死に、町外れの丘には埋葬しきれない死体が並べられ、城の中にも疫病で倒れる者さえ現れ始めていました。憂いた姫は人々のために感染が激しい地域へ行き食べ物や薬を持っていっていました。
だが、姫も疫病にかかってしまいました。

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姫は病に伏してもなお、祈りました。疫病で苦しむ人がいなくなるように。その強い祈りを利用した魔女は姫の枕元で囁きました。
「疫病をしずめてやろう。おまえはわたしにどんな代償を払えるか」
姫は魔女に言います。
「皆が苦しまなくて済むのなら、わたくしの全てを」
「わたしは命までは奪えぬ。死神ではないのだ。それでは命以外のものをいただこう」
疫病はなくなりましたが、姫は美しさと賢さを失いました。

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やがて、王国が元どおりに復興したころ、醜く聡明さも失くした姫を慕う者は、一人もいなくなっていました。
そこに追い討ちをかけるように、嫌な噂が広まり始めました。姫が魔女ともくろんで、疫病を流行らせたのだというのです。
根も葉もない噂でした。ですが信頼さえも魔女に奪われた姫を、信じる者はもはやいません。
国王は姫を遠い森に追放してしまいました。

汚れたドレス一枚を見に纏い、姫は険しい森を進みました。

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「どうして私がこんな目に…私はただ皆を救いたかっただけなのに…」

そう呟いた姫の心には次第に以前の姫とはかけ離れた醜い感情が渦巻いていきました。

「こんなことになるなら…最初から皆疫病で死んでしまえばよかったのに。」

皆の為に、と身を賭した祈りが皮肉にも姫の心を復讐に染めようとしていたのです。

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「身の程を知らないから、こんな目に遭うのさ」
いつの間にやら姫の前には憎き魔女が立っていました。
「人間は他人を救う様には出来ていないんだよ。それが出来るのは一部の金持ちや権力者くらいさ。まあ金と権力を取っ払っちまえば皆同じだがね。お前みたいにね」
魔女はヒヒヒと笑い姫に顔を近づけます。
「もう一度問うよ?お前は本当に疫病を鎮めたいのかい?」
姫は叫びました。
「奪ったものを返して!」と。

スミオ

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魔女は姫にぐっと近寄り、低くくぐもった声を出しました。
「お前がそう言うことは分かっていた。これまで願いを叶えてやった人間たちと同じようにね」

そう言うと魔女は闇の中に消え、姫はまた1人取り残されたのでした。

姫はうなだれて、いぼだらけの顔をかきむしり、手についた血をぼうっと眺めました。

どこか遠くで、聞き慣れた声が聞こえた気がしました。

ななめ右

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王国の民達の声だ。

「「「「疫病の魔女を殺せ!疫病の魔女を火炙りにしろ!!」」」」

奇しくも、王宮で貴族たちが囁いていた言葉と同じであった。
松明を手に森の中を彷徨ってる姫を捕まえて処刑するつもりだろう。それが、正当な裁きであると疑わず。

姫は声のする方とは逆に駆け出した。がむしゃらに腕を振り回す彼女の姿は無様で滑稽であった。

…ヒューッ

風切り音がした瞬間、姫の足に矢が突き刺さる。

トリモチ専用ルンバ

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その場に倒れ込み意識を失った姫を、武器を手にした民が取り囲んだ。しかし、彼らは手を出そうとしない。
「ひ、姫様…」
民の一人が泣き崩れると、周囲の民も武器を捨て泣き始めた。その中心には、かつての美しさを取り戻した姫の姿があった。

数日後、姫は城の自室で目を覚ました。その横には、国王が沈痛な面持ちで立っていた。

「この国は再び疫病に侵されようとしている。頼む…もう一度、国を救ってくれないか」

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「お断りいたしますわ」

美しさを取り戻した姫は淑やかに微笑み、国王の懇願を切り捨てた。
外からは再び蔓延し始めた疫病に絶望し、救いを乞う民たちの悲鳴が響き渡る。だが、その狂騒すら今の姫には心地よい舞踏曲(ワルツ)のようだった。
かつて身を捧げた聖女は、絶望に踊る王国に背を向け、新たな魔女として暗闇の森へしなやかに歩み出したのだった。

悠生

- 完 -

作品情報

裏切られた聖女のワルツ

#25684

リレー期間

10年10ヶ月