改めて自室の本棚を眺めてみると、色んなタイトルが並んでいるものだ。 「記者アーノルドの事件手帖」 「つみきの孤塔」 「イディスと魔法の仮面舞踏会」 「バッド・ガイ」 「意味深な林檎」 「チョコレートドリンクを彼方へ捧げる」 「深海魚と黒い微笑み」 「サスペンス戦隊タンテイジャー」 「四人の桃太郎 in 二丁目」 「星運びの箱舟2 〜失われたシェダヴルクの義眼〜」 「海を跳ぶ白龍とヴィエルキ・ヴス」
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「宝石っ子の独り立ち」 「人生設計屋」 「炬燵の裏取引」 「カナリア毒」 「愛は地球を救うが、私を救ってはくれない」 「伊達正宗の愛したお酒」 「存在のないしじみさん」 「最後の月を食らう狼」 「メイちゃんはハンムラビ法典を抱いたまま」 「オケアノスの夕暮れ」 「メンズビオレに魂を捧げよ」 「サイボーグ香り箱」 「雲井に紛う、起きつつ知らないふり」 「取説にもユーモアを」 「ダークニート」
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「サラマンダーの飼い方」 「星屑辞典」 「世界が滅してもふたりでいよう」 「ペンギン柄の傘」 「アイスランド旅行記」 「船酔いしないコツ」 「真冬の作曲家 ──鯨はどうして歌うのか」 「夜を悼む国」 「エンジェルダスト」 「群青に溺れる」 「ドビュッシー ピアノ曲全集」 「レモネードに炭酸はいらない」 「プラネタリウムを作る 創刊号」 「夜行怪談」
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はあ。どれもこれも懐かしい。 「……と、うっとりしている場合ではありませんでした!」 アリシアは我に返る。3パラ分の刻が流れていた。 「きっとこの書棚のどこかにあるはずです!」 禁錮中のバレイ船長が内密に教えてくれた隠し部屋の存在。その手掛かりが私の部屋にあるというのだ。 改めて自室全体を眺めてみる。 「これといって怪しい物は無いですけれど」 この部屋を充てがわれた時、壁一面の書棚には心踊った。
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一言で言うと、本好きの・本好きによる・本好きの為の部屋。 「…やっぱり、こんな部屋で秘密を握っているのは本しか無いですよね。」 本が果たしそうな役割について、私が思い付いたのは三通り。 ①分厚い本の中身がくり抜かれて、鍵か、メッセージが入っている。 ②本の題名を辿るとメッセージになっている。 ③この部屋を作った人の、特に思入れのある本の中にメッセージが書いてある。
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背表紙が他よりボロボロになった本、と言うのが定石だ。その本だけ何度も何度も触られているから。端から順にチェックしていく。 「これかな?」 擦り切れてタイトルの読めなくなった高さ17cm、幅3cm程の本。ボロい外にはあまり特徴がなさそうだ。天面に指をかけ、引き抜く────つもりが何かが引っかかって取り出せない。斜め45度辺りでカチリ、と小さな音がしたきり。 「レバーのパターン??」
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すると突然、ゴゴゴと言う音と共に本棚が揺れ始めた。 「ま、まさか…!」 だが、暫く揺れた後、数冊の本が床に落ちただけで振動は止まってしまった。 「…え?棚動かない?」 と、床に落ちた本を何気なく見たアリシアは目を丸くした。 「こ、これは…!」 なんと、一冊の本の中がくり抜かれており、その中に鍵が! そして更に、他の本の題名の頭文字を見ると… 『コ野か儀乙替え』 「って、全部のパターンかよ!」
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「この鍵を使えといっても…どこに鍵穴があるというのでしょう」 部屋をもう一度見渡した。 「…どこかの引き出しにヒントが隠されていたり…?」 アリシアは部屋の引き出しを片っ端から覗いていった。 …やっぱり無い。 走り回ったせいで少し疲れ、一人掛けのソファに座った。 「ん?」 よく見ると、左の肘掛のところに線がある。 「もしかして」 触ってみると肘掛がぱかりと開いた。 中には… 「まさかの鍵穴!?」
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鍵を入れて回すと、本棚がゆっくりと開いた。アリシアは足を進めた。 その部屋は不思議な部屋だった。 宙に何冊もの本が浮き、消えたり現れたりしている。しかも全て9ページしかない上に、途中までしか書かれていない。 これらの本には1ページだけ続きを書く事が出来る様だ。試しに1冊続きを書くと、その本は消えてしまった。 新しい1ページを書く事も出来ると気づき、アリシアは早速思いついたアイデアを書いた。
- 完 -