うんとこしょ。 どっこいしょ。 それでもカーブは抜けません。 「ねえ、このカーブいつまで続くの?」 「知らないよ。俺もそろそろ左へ行きたいと思っていたところだ」 2人を乗せた車はひたすら右へ曲がり続けるのでした。
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右へ曲がっても曲がっても一本道。 左に曲がる道は出てきません。 そのカーブは右に曲がりながら少しずつ上に向かっているのでした。 螺旋。 2人はこの螺旋から抜け出せるのでしょうか。
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道路脇に青年が立っていました。 「抜けないんだろう?手伝ってやる。」 返事も聞かずに後部座席に乗り込んできます。 「Тянут-потянут, вытянуть не могут.」 「おお、なんか凄そう。」 「いや、言ってみただけだ。僕に出来ることなんて、ほんとは何も無いさ。」 涼しげな顔で、青年は外を見ています。 うんとのぼって、 どっこまでものぼって、 それでもカーブは抜けません。
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うんとこしょ。 どっこまで。 2人と青年を乗せ右曲がり。 まだまだカーブは抜けません。 すると今度は赤い服の小さな女の子が道路脇に立っていました。 「わたしもカーブを抜くのお手伝いするわ」 女の子は後部座席の青年に奥に詰めなさいよと押しやると、強引に乗り込んで来ました。 2人と青年、女の子。 4人揃って、 うんとこのぼって、 どっこまで。 それでもカーブは抜けません。
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うんとこちょ。 どっこいちょ。 2人と青年と少女を乗せ右曲がり。 まったくカーブは抜けません。 すると今度は道の真ん中に一匹の猫が寝ていました。 「僕もカーブを抜くのをお手伝いするにゃ」 何で猫が話せるのかツッコミする間に、猫は彼女の膝の上に乗りました。彼氏はこの野郎と猫を睨みつけました。 2人と青年と少女と猫。 うんとのぼって、 どこまでのぼって、 それでもカーブを抜けません。
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うんとこにゃ。 どっこいにゃ。 二人と青年と少女と一匹。 一向にカーブは抜けません。 走る車の前に凛々しい姿で立つのは一匹の犬。 「俺もカーブ抜くのを手伝うわん」 どうやら動物は普通に人間の言葉を話せるらしい。犬は車のボンネットの上に座った。 二人と青年と少女と二匹。 うんとのぼって、どこまでも。 まだまだカーブは抜けません。
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うんとこくぅーん。 どっこいくぅーん。 二人と青年と少女と二匹が右肩下がり。 やっぱりカーブは抜けません。 すると今度はハムスター。 「わいもカーブ抜くん手伝ってやんよ」 もはや、人間の言葉を話す以前に、そんな言葉をどこで覚えたか気になるところ。ハムスターは少女の頭の上に乗っかった。 二人と青年と少女と三匹がギュウギュウ。 うんうんのぼって、どこまでも。 やっぱりカーブは抜けません。
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うんとこちゅー。 どっこいちゅー。 二人と青年と少女と三匹は右寄りにぎゅうぎゅう。 それでもカーブは抜けません。 坂も急になってきたような気がします。 「私もカーブを抜けるのを手伝ってあげましょう」 パタパタと窓からはスズメが入ってきた。みんなの頭上を旋回した後、青年の肩に止まりました。 二人と青年と少女と三匹と一羽。 うーんとのぼって、どこまでも。 もう少しでカーブは抜けそうです。
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うんとこしょ。 どっこいしょ。 みんな一緒に右からジャンプ 大竜巻を飛び出して やっとカーブを抜けました。 けれど車は空高く舞い上がり うんとのぼって どこまでものぼって 螺旋銀河に辿り着いた また次のカーブがやってきます。 螺旋の道は 遺伝子の通り道 46億年の思い出を みんなで繋いで その車は走り続ける みんなで一緒にうんとこしょ どっこいしょ やっぱりカーブは続きます どっこまでも
- 完 -