確かに好きだったなぁ、と思う。 友達が誕生日プレゼントにくれた山盛りのあんぱんを見つめながら、私はため息をついた。 確かに私は、あんぱんが好きだとあちこちで言っていた。今だって、別に嫌いになったわけじゃない。 どうして好きになったのか。 あの人があんぱんを好きだったからだ。 どうして好きじゃなくなったのか。 あの人が私のことを好きじゃなくなったからだ。 また好きになんて、なれない気がする。

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子どもの頃から、私は突っ走るところがあって。好きになったら芋づる式。どんどんどんどん染まっていく。とことん行くトコまで行っちゃう。 半年ぶりに逢った友人の情報は更新されておらず、悪気もない。そも、あんぱん好きになったキッカケも、彼のことも知らない。それで友人と呼べるかは若干疑問だけれど。 「このあんぱんは凄いんだって。保存食として作られたから、一年はもつんだよ」 私の愛着は期限切れなのに。

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仕方がないので、出会った人に片っ端からあんぱんを配ってゆくことにした。 朝。 「おはようございます」 「早朝に珍しいな、どうした?」 とりあえず職員室の担任の元へ。 「先生、あんぱん食べませんか?」 貰いすぎたので……と理由は濁しつつ、袋から取り出す。 粒あん、胡桃あん、抹茶あん、あんドーナツ、桜あん、餅あん、塩麹あんetc. ……こうして並べると友人もよくも集めて来たものだ。

ゆりあ

7年前

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悪気の無さ、むしろ善意や好意が見てわかるほどに現れているので、余計始末に困る。 「あんぱんにこれほど種類があるなんて知らなかった」 好奇心旺盛に先生は一つ一つを手にとって眺めた。 あんぱん好きを公言していながら、私はこしあんと粒あんの違いしか知ってはいなかった。友人もそれを知っていたのだろう。 「ちょっと一工夫するだけで、別物みたいに見えるのね」 先生が選んだのは生クリーム入りのあんぱんだった。

aoto

7年前

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昼。 ランチタイムは大量消費のチャンス。 「好きなのを選んで」 友人たちにあんぱんを紹介する。 「へぇ〜美味しそう」 皆、変わり種のあんぱんに興味津々。次々と手が伸びる。 「これもあんぱんって呼んでいいのかな」 あんドーナツを手にした加奈子が言う。 「あんとパンではあるけど…パンもそれぞれ違う」 千佳が選んだのは胡桃あんぱんだ。 「一つも同じのはないんだね」 由希は桜あんぱんに手を伸ばす。

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